マイケルさん。。80年代ファンタジー

音楽における80年代ファンタジーといえば、マイケルさんでしょう。マイケルさん。大スターは遠い存在、文字通り、遠くなってしまったので、さんづけでこう呼びたい。


90年代以降はゴシップやスキャンダルなどで活躍はどうもぱっとしなかった。見るたびに変わっていく整形の顔は、注目の的となり。児童虐待で訴えられて裁判になる。奇人の天才にさもありなん、かと思いきやWikiPediaをみると、原告側に詐欺目的の訴訟みたいな難ありな人物像だったりする。真偽のほどはよくわからずとにかく無罪。さらにレコード会社・ソニーとのトラブルがありこれも裁判沙汰になる。自宅ネバーランドの建設費やありえないほどの浪費によって巨額の負債を抱えていたとかの報道もあり、奇人変人ぶりを取り上げられてはたたかれる存在となりはてた。かつての顧問弁護士や共同事業者、芸能界などの陰謀があったという話もあるらしい。何がどうなっているんだか詳細は不明。ゴシップやスキャンダルの取り上げられ方は、フェアじゃないかった可能性は頭の隅においてもいいかもしれないなー

80年代はMTVが出てきたことによって、世界各国のテレビでミュージックビデオを流すようになり、洋楽全盛時代が突如としてやってくる。というのが80年代だったかと思う。その中でももっとも洗練されて影響力をもった存在がマイケルさんだった。80年代後半にはコンサートツアーで来日した際には、社会現象とまでいえる騒ぎとなり、学校の廊下などではムーンウォークをする児童であふれかえった。しかし思えば、歌の途中で発せられる「ヒー」や「パオゥ」といった奇声だったり、股間に手を当てて腰を振るセクシャルなダンスだったり、お茶の間のテレビで見るにはちょっとこっけいで恥ずかしい存在でもあった。


奇行ばかりが目に付いて、死んでもなおよくわからないといわれる人物像に考えをめぐらせると、そう不思議でもないかなと思う。ジャクソン5という子役時代から、エンターテイメント業界でたたき上げられて、80年代ソロで活動してさらなる成長を遂げたスターだ。なにかと世間的な常識とにずれているエンターテイメント業界での、いうなれば純粋培養というキャリア。同世代だったマドンナやプリンスは20歳くらいでデビュー? したのと対照的だ。かといって、スポイルされているのとは違い、自分はこうでなければならない、という理想像に向けてなみなみならぬ努力を惜しまない完ぺき主義な人だったのではないかと思う。あのハイトーン、楽器としての声をありえないくらい性能にまで引き上げただけでなく、反人種差別や博愛といった、時として普遍的なメッセージを表現しようとしていた。表現しようとするものに対してふさわしい自分であらねばならず、そのために整形もしなければならなかったのだと思う。


エンターテイナーとしては、ステージでのパフォーマンスで楽しませることも重要だ。マイケルさんにとっては、「ダンスは体で楽器を演奏するようなもの」だったという。数々の有名な振り付けが自らのアイデアで生み出されていった。日本のテレビで覇権をにぎっているジャニーズなどのアイドルグループへの影響も大きい。いまエンターテイメントとはこういうものだという、原型をどんどん生み出していったのだ。クリエイティブだったということにつきる。ティーンエイジャーに自己表現的なメッセージを投げかけるミュージシャンとは方向性は逆で、クリエイティブであるために、エンターテイナーとして自分を犠牲にするといったタイプの天才職人だったのだ。


思えば、70年代はベトナム戦争で負けて、石油ショック後の不景気もあり、ヒッピーという逃避行も終わり。音楽では反抗のシンボルだったロックという時代が終わり。映画ではリアリズムの文芸作品を原作にしたようなアメリカンニューシネマが主流になってしまい。若者にとって現実と向き合わなければならない、つらい時代だったのではないかと思う。いうなれば若いことは未熟であり、欠陥であるというような時代。そういった鬱屈した時代の空気を破るべくして、80年代には若さを全肯定するような青春のシンボル的なアイドルが登場する? ありあまるエネルギーで踊ってみせ、叫んでみせたマイケルさん。それにみなが待ってましたとばかりに、狂喜した。80年代はレーガンサッチャー政権の新自由主義時代となり、政治もファッションも歴史は新しく塗り変わっていった。


作り物みたいといわれるマイケルさん。そういう新しい時代を作り変えるクリエイティブな存在であるために、つくりものであらなければならなかったのだと思う。80年代はそういう天才たちによってつくられたファンタジーの時代だったのではないかと思うのだ。さようなら、ありがとう、大好きでしたマイケルさん。




*1自宅ネバーランドについてマイケルさんが語ったといわれる言葉。WikiPediaから。「ピーターパンは僕が心の中に持っている特別な象徴なんだ。ピーターパンからイメージするのは若さ、子供時代、大人にならないこととか、Magicとか、空を飛ぶこととか、僕はそういったものにずっと魅力を感じ続けていて、そして何よりも大切なものだと感じ続けているんだ」夢いっぱいにあふれる子供時代を、青春時代を取り戻そうとしてくれる、ピーターパンだったんだな。マイケルさん

*1:追記